金属に“描いて彫る”和田彫金工房が生み出す彫金の世界
- 5月29日
- 読了時間: 5分
富山県高岡市で、代々彫金の技術を受け継ぐ和田彫金工房。仏具や茶道具に施される伝統的な彫金から、近年ではナイフや包丁、アクセサリー、さらにはロゴデザインまで——その仕事の幅は大きく広がっています。
今回は和田彫金工房の和田さんに、彫金という技術のこと、普段のものづくり、そしてこれから挑戦したい表現について伺いました。

「金属に絵を描いて彫る」仕事
—— まず、和田彫金工房さんって、どんな技術を持っている工房なんでしょうか?
和田さん:大雑把に言うと、「金属に絵を描いて彫る」仕事っすね。鏨(たがね)と金槌を使って、桜や鶴の柄を彫ったり、お寺の家紋や寄付された方のお名前を入れたりしています。
—— 決まった柄を“彫る”だけじゃなくて、“絵を描く”ところから始まるんですよね。
和田さん:例えば「桜を入れたい」と言われても、どう配置するか、どういう雰囲気にするかっていうデザインが必要になるので。何に入れるのか、どんな人向けなのか、価格帯はどうか、みたいなこともヒアリングしながら考えています。
—— かなりデザイン寄りの仕事でもあるんですね。
和田さん:そうっすね。自分では、いわゆる“コマーシャルアート”に近い感覚かなと思っています。「いくらくらいの商品なのか」「どういう場所で売るのか」みたいなところまで聞いて、「じゃあこういう表現どうですか?」って提案していくので。

仏具から、ナイフや包丁の世界へ
—— 工房としては、もともと仏具関係のお仕事が中心だったんですか?
和田さん:僕が仕事を始めた頃は、ほぼ100%仏具でしたね。ただ、さらに昔は、お茶道具とか飾り物とか、美術工芸品みたいなものも作っていたみたいです。
—— 最近はナイフや包丁への彫金もされていますよね。
和田さん:そうっすね。ナイフ作家さんに見つけてもらって、グリップ部分に彫るようになって。そこから包丁メーカーさんにもつながって、今は刃の部分にも彫ったりしています。
ありがたいことに、海外の展示会に出品する機会があったり、インバウンドのお客様にも好評なんすよ。

彫れる素材は「金属ならだいたい」
—— 彫金って、やっぱり金属専門なんですか?
和田さん:基本はそうっすね。使っている刃物より柔らかい素材なら、だいたい彫れます。
—— 例えばどんな素材ですか?
和田さん:真鍮や銅、銀製品ですね。最近は包丁関係で、鋼材やステンレス系を触ることも増えました。チタンもいけますけど、硬度が高いステンレスはかなり厳しいっす。
—— 素材によって、仕上がりも変わりそうです。
和田さん:変わりますね。光り方とか、彫った時のキラッと感とか。あと、うちの彫り方って比較的深く力強く彫るので、薄い素材だと穴が開いたり歪んだりすることもあるんですよ。
—— じゃあ、まず試し彫りをすることも?
和田さん:もちろん。テスト用の素材を預かって、「これいけるかな?」って確認したりしますね。

レーザー加工には出せない“手彫りの輝き”
—— 今はレーザー加工もありますが、手彫りならではの魅力ってどこにあると思いますか?
和田さん:やっぱり“輝き”っすかね。手彫りって、力強く彫ることで彫り口が光を反射して、キラキラするんすよ。
—— 確かに、実物を見るとかなり印象が違います。
和田さん:そうなんすよ。レーザーは焼いて溶かす加工なので、どうしてもツヤ感や立体感が出にくい。彫金した品物は写真より実物の方が圧倒的に良いんすよ。
彫金は「どう固定するか」を考えるところから始まる
—— 実際の制作って、どんな流れで進むんでしょう?
和田さん:まずはヒアリングですね。何に彫るのか、サイズ感、価格帯とかを聞いて、デザインを提案していく感じです。
—— その後、試作して、本制作へ。
和田さん:そうすね。あと意外と大事なのが、「どう固定するか」を考えることなんです。
—— 固定、ですか?
和田さん:高鏨を左手、金槌を右手に持つので、加工物を固定しないといけないんすよ。複雑な形状だと、「どうやって押さえる?」っていうところから始まります。そこを考えておかないと無茶な彫り方になってしまって思ったクオリティが出しにくい。
ここらへんの感覚は提案から制作まで一貫してやっているからこそ、より美しく綺麗に彫れるデザインの提案ができるのかもっすね。
—— 曲面にも彫れるんですか?
和田さん:もちろん。ただ、道具が入って、金槌を振れるスペースが必要なので、狭い筒状の中とか形状によっては難しい場合もあります。

3D、ロゴ、異素材。
広がる“工芸的ものづくり”
—— 最近は3Dモデリングやロゴ制作もされているそうですね。
和田さん:もともとゲーム会社出身なので、3Dもできるんすよ。「これ立体にできない?」って相談を受けたのがきっかけでした。
—— ロゴ制作の依頼も来るとか。
和田さん:ありますね(笑)。でも単なるロゴじゃなくて、「金属に刻印しやすい」とか、「アクセサリー展開できる」とか、工芸的な視点を求められている感じがあります。
—— かなり“ものづくり全体”に関わっているんですね。
和田さん:そうっすね。鋳造会社さんとか着色業者さんとか、周りと連携しながら進めることも多いです。「金属で何か作りたい」っていうざっくりした相談からでも大丈夫です。


「今の生活」に合う工芸をつくりたい
—— 最後に、今後やってみたいジャンルはありますか?
和田さん:ファッション系はもっとやってみたいですね。工芸って、どうしても“暮らしに馴染ませる”方向になりがちなんですけど、今って推し活グッズもあるし、ライブグッズもあるし、もっと文化が多様じゃないですか。
—— 最近作られていた大ぶりのペンダントも、かなりインパクトありました。
和田さん:HIPHOPの“ブリンブリン”みたいなイメージっすね(笑)。工芸アクセサリーって、小さくて可愛いものを想像されがちなんですけど、ゴツくて大きいものも楽しいなって。
—— 伝統工芸というより、“今のカルチャー”に接続している感じがありますね。
和田さん:そうっすね。金属に何かしたい、面白いものを作りたいっていう相談の窓口になれたらいいなと思っています。
