「井波彫刻って、実は決まった形がないんです。」前川さんに聞く、井波彫刻の魅力と未来
富山県南砺市・井波地区で約250年受け継がれてきた井波彫刻。
寺社彫刻や欄間をはじめ、木彫刻の産地として全国的にも知られています。
今回は井波彫刻師の前川さんに、井波彫刻ならではの魅力や、普段のものづくり、そして産地の未来についてお話を伺いました。

「井波彫刻って何?」と聞かれると…
前川さん:実は「これが井波彫刻です」っていう決まりはないんですよ。
——そうなのですね、意外でした。
前川さん:宮大工がお寺の彫刻を手掛けたのが始まりと言われていますけど、それが神社や祭り屋台、住宅の欄間へと広がっていった歴史なんです。
だから、「この彫り方だから井波彫刻」というより、この土地で受け継がれてきた木彫文化そのものが井波彫刻なんですね。
——じゃあ、職人さんごとに作風も違うんですか?
前川さん:同じような修業をしていても、最後はそれぞれの色になりますね。
——井波彫刻というと、「紙やすりを使わない」という話を聞いたことがあります。
前川さん:そう言われることは多いですね(笑)。でも絶対ではないです。
漆を塗る作品なら紙やすりも使いますし、作品によって仕上げ方は変わります。
——なるほど。
前川さん:ただ、白木で仕上げるものは、鑿の切れ味をそのまま見せたいので、紙やすりは使いません。刃物で彫った表情を残したいんです。

機械ではできても、最後は人の手
——最近は木工でもCNCルーターやレーザー加工がありますが、そういった機械とはどう使い分けていますか?
前川さん:荒取りには使えると思います。でも最後の仕上げはやっぱり手ですね。
機械で大まかに削ることはできても、細かい表情まではまだ難しい。
結局、最後は刃物を入れることになります。
——用途や予算によって、機械も取り入れることはある、と。
前川さん:そうですね。どこまで求めるかですね。

「注文されたものは、何でも作ります。」
——普段はどんなものを制作されているんですか?
前川さん:注文されたものは何でも作ります。
——すごくシンプルですね(笑)。
前川さん:置物もありますし、お寺の仕事もあります。
お店に納めるものもあれば、個人のお客さんからの依頼もあります。
本当に毎回違います。
——じゃあ、「これが一番多い」というものもないんですね。
前川さん:ないですね。
だから毎回、「今回はどれくらい時間がかかるかな」って考えながら仕事しています。

大切なのは、お客様とのキャッチボール
——以前見せていただいた龍の彫刻も印象的でした。
ああいう作品は、どんな流れで形になっていくんですか?
前川さん:まず、お客さんの要望を聞いて絵を描きます。
「もっとこうしてほしい」とキャッチボールしながら少しずつ詰めていきます。
——完成イメージの共有は難しくありませんか?
前川さん:そこまで苦労したことはないですね。絵を見てもらいながら調整していくので。

得意なのは、「本物を再現すること」
——前川さんが特に得意だと思う表現はありますか?
前川さん:得意っていうほどではないですけど…。
強いて言えば、古いものをそのまま再現することですかね。
——そうなのですね、オリジナルのデザインが得意な印象がありました。
前川さん:学生時代にデッサンや塑像をたくさんやってきたので、その経験は今につながっています。
同じものを同じように作る、というのは比較的得意ですね。
木材選びも、ものづくりの一部
——彫刻に使う木材は、どんなものが多いんでしょうか?
前川さん:欅(けやき)や楠(くすのき)を使うことが多いですね。
ものによっては桐や桜も使います。桐は柔らかすぎて逆に難しい部分もあります。
——素材選びも提案されるんですか?
前川さん:もちろんです。
完成したときの見え方や予算を考えながら、「この木が合いますよ」と提案しています。
井波には材木屋さんもいるので、材料の調達まで含めて対応できます。
——完成後の仕上げはどんなものが多いですか?
前川さん:白木のまま納めることも多いですね。
もちろん漆を塗ることもあります。
外に置くものなら防腐処理をする場合もあります。木は、何も塗らずに経年変化していくのが一番きれいだと思うんです。
変にコーティングすると、剥がれてきたときにかえって見た目が悪くなることもあるので。

4年をかけて完成した風神雷神
前川さん:風神雷神ですね。
最初の打ち合わせから完成まで4年くらいかかりました。
——4年…。
前川さん:粘土で模型を作って、構造を考えて。
高さ3メートル近い作品なので、中に鉄の芯を入れて、地震でも倒れないように設計しています。
彫るだけじゃなくて、組み立て方まで考える必要がありました。
技術だけでなく、産地そのものを残したい
——現在は後継者育成にも取り組まれているそうですね。
前川さん:今は100人以上職人がいますけど、このままだと10年、20年後には半分以下になると思います。だから今のうちに仕組みを変えないといけない。
——制作だけではなく、産地全体を考えているんですね。
前川さん:まだ準備段階ですけどね。少しずつ動いています。
目指すのは、技術が集まるものづくり
——最後に、これから挑戦してみたいことを教えてください。
前川さん:いろいろありますけど…。
Project Oで作ったシャンデリアみたいに、いろんな技術が集まって一つのものを作る、ああいう仕事はまたやってみたいですね。
木彫だけじゃなく、それぞれの職人の技術が合わさることで、新しいものづくりが生まれると思います。
